【他人の建物に火災保険を掛ける事が出来るの??】の疑問にお答えします!

結論から先に言うと、他人の建物に対して、火災保険を勝手に設定する事は原則としてできません。

なぜ出来ないのか?その理由を説明してみたいと思います。

法律的な解釈文等も引用して説明するので、少し難しい部分もあると思いますが、最後まで読んで頂けたら幸いです。

他人の建物に火災保険が掛けられない理由

保険法の3条には、「損害保険契約は、金銭に見積もることができる利益に限り、その目的とすることができる。」と明記されています。

ここでいう利益とは、被保険利益の事を指しています。

被保険利益とは、簡単に説明すると、「保険事故が発生する事によって、被保険者が損害を被る可能性のある利益、あるいは、保険事故が発生しない時に被保険者が有する利益」と定義出来ます。

保険法上、被保険者が「損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者」と保険法2条に定義されているのはこの被保険利益の定義の根拠となっているのです。

損害保険契約に被保険利益が必要な理由は、射幸契約性(偶然の利益を得ることを目的とした契約)があるからです。

もし他人の自宅に勝手に火災保険を設定出来るとすると、確実に放火事件が増えてしまいます。

近所で火災が起きても消火に協力しない事も有り得ます。

これに対して、自分が所有している建物にしか火災保険が設定できないとすると、放火が増えるようなリスクは少ないわけです。

また、被保険利益が被保険者にあるのであれば、被保険者が保険事故によって発生した損害を、損害保険金でてん補しているだけなので、被保険者には損害額以外の特別な利得が生じません。

被保険利益を満たす条件とは?

被保険利益は、以下の要件を十分に満たしている事が求められています。

①金銭に見積もる事ができること

1996年の群馬弁護士会から発行されている「火災の法律実務」から引用させていただくと、以下の様に定義されます。

保険者のなしうるものは金銭の支払いその他の経済上の給付に限られるから、これにより相殺てん補されるべき保険事故の発生による被保険者の損失も経済的損失に限られるべきだからである。したがって精神的あるいは感情的利益は被保険利益となりえない。また、経済上の利害関係であれば足り、かならずしもそれが法律上の利害関係である必要は存しない。

 

②被保険利益は適法なものであること

これはシンプルに適法であるというのが前提条件という意味になります。

③確定できるものであること

①と同じく、群馬弁護士会発行の「火災の法律実務」から引用すると、以下の様に定義されます。

したがって、将来の収穫物、運送中の物品の到達地における価値増加の額または運送することによって取得すべき運送賃等、将来生ずる利益も、被保険利益とすることができる。これに対して単に関係者が主観的に存在すると信じるに止まるような利害関係(例えば親の遺髪についての愛情利益等)では被保険利益たりえない。

④具体的に被保険利益が特定されるべきこと

上記と同じく群馬弁護士会発行の「火災の法律実務」から引用すると、以下の様に定義されます。

同一の保険目的物について複数の被保険利益が存在し得ることから(所有利益と担保利益等)、保険契約締結時に具体的に被保険利益が特定されるべきであり、「保険の目的のみが定められて、その被保険利益の種類が明らかでない場合には、特別な事情のない限り、その所有者としての利害関係を、しかもその所有者が所有者として有する一般的利害関係を被保険利益としたものと解釈すべきである。」

⑤被保険者が確定されるべきこと

被保険利益は、被保険者と密接に結びついていて、分けたり切り離したりできないので、被保険利益が具体的に特定されると同時に被保険者も確定される事になります。

最も被保険者は、例えば保険目的物の他所有者等と抽象的に確定するべき事も可能だと考える事もできますが、これらの要件が実務上問題となる事は殆ど無いので、重要なのは被保険利益の種類や機能です。

被保険利益の種類とは?

被保険利益の種類を考える場合、参考になる文献は、1978年に発行された「火災保険概論」という書籍で、そこから引用させて頂きますと、以下の様な説明になります。

所有者利益

その物が罹災(りさい)することによって、その人が所有者としての損失を被るという関係における利益

収益利益

罹災のため、その物からの収益が得られなくなることによって、その人が損失を被るという関係における利益(例えば工場所有者は工場設備についてこの被保険利益を有する)

担保権者利益

担保物が罹災した場合に、その人が被担保債権の弁済を得られなくなるため、損失を被るという関係における利益

責任利益

その人の過失等のために、その物について損害が生じた場合に、その人が他の者に対して損害賠償責任を負うことにより、損失を被るという関係における利益(例えば他人の物の貸借人や保管者が、貸借物や保管物について有する被保険利益)

費用利益

その物の罹災の場合に、物自体の損害とは別に、その人が何らかの費用(例えば臨時に増加する生計費や営業費等)の支出を要することにより、損失を被るという関係における利益

被保険利益の機能とは?

被保険利益の機能とは主に以下の2つに定義されます。

  1. 重複保険の判断基準になること
  2. 被保険利益の評価額、つまり保険価額が損害保険金の上限となること

①は、保険の目的物が同じ建物であっても、所有者や貸借人、抵当権者の被保険利益は上記の通り違うので、各被保険利益に係る損害保険は、重複保険とはなりません。

②は、新価保険等では修正されていて、また、費用利益については、実際に支出した費用とは無関係に定額の費用保険金が支払われるので、損害てん補からは離れています。

まとめ

被保険利益という概念によって、他人の建物に火災保険を設定することが出来ない事が分かりました。

それでは夫婦であっても、同じ様に火災保険を設定出来ないのかという問題が出てきます。

夫が妻の建物に、あるいは妻が夫の建物に対して火災保険を設定する事が出来るのかという論点について、諸説があるようですが、被保険利益を肯定して考えるのが通常の考え方となります。

例えば夫の所有する自宅に対して、妻が火災保険を申し込む場合は、日常家事債務の範囲内に含むとして、代理権を認められる事が、民法761条に規定されています。

しかし、基本的には他人の所有物に対して火災保険は設定出来ないという事を理解して頂けたら幸いです。

※最近では、所有者の同意を得る事が出来れば、火災保険を設定することが可能な損害保険会社もあります。

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